エネルギー問題は発送電分離から
2016年6月4日
風土に合った手作りの暮らしは、健康によく、環境によく、社会に良い。そういった暮らしができるのが、地方の町や村の魅力である。しかしながら日本では都市化と人口減少が急速に進行し、過度な都市化や、村が消滅することが問題になっている。地方の魅力の一つは、安心できる水と食料とエネルギが自給できることである。こうした強みを地方創生の契機にできれば嬉しい。
福島の震災以後、原子力エネルギから再生エネルギへの、エネルギシフトの機運が高まっている。再生エネルギとは太陽光・風力・地熱・小水力・バイオマスなどによる発電エネルギである。再生エネルギは発電密度が小さいため、都市での利用は難しいが、地方は、土地が広いので、再生エネルギを利用しやすい。例えば、山村の場合、木質バイオマスを利用することで、山林が整備され、安定した雇用が生まれる可能性がある。エネルギが自給できると、お金が外部に漏れずに地域の中で循環するので、経済の活性化が期待できる。
今回の講師は、長年、国際NGOスタッフとして平和運動に取り組んできた作家の高橋真樹(まさき)氏である。高橋氏は、こうした再生エネルギ供給を進める市民の活動をレポートしてきた。講演で高橋氏は、再生エネルギの活用や活用への取り組みは、反原発だけでなく、地方創生の契機になり得ると述べた。講演の後、参加者はテーブルごとに、与えられたテ-マについて話し合い、結果を発表した。具体的には、山村や離島を想定し、村の将来ビジョンに適合する自然エネルギの利用方法を考えた。太陽光パネルや風力・水力・バイオマス発電のモータは、あくまでも石油製品である。しかしそうしたものを上手に活用して地方の価値を引き出せるのであれば、面白い。
講演のはじめに、高橋氏は、故障して放置された風力・バイオマス発電設備や、山林を崩して景観を悪化させる太陽光発電などを紹介し、再生エネルギのマイナスの側面について触れた。これは自治体や企業による一過性の取り組みによるものである。そうならないためには、地域市民の主体的な関わりが重要であると指摘した。市民が避難所の小屋に30万円程の太陽光パネルを設置する事例を紹介した。少しでも役に立つことが重要であるという。
日本では再生エネルギの占める割合はまだ12.6%と少ないが、数年前の3.8%から大きく増加している。ドイツでは再生エネルギの占める割合は30%と高い。デンマ-クでは大型火力発電から、小型火力発電と風力発電にシフトしている。人口4000人のデンマ-クのサムソ島の村人たちは、将来を切り開く道として観光と売電を選択し、風力による電気の完全自給を達成した。日本では地域活性化に、ゆるキャラ、加工特産品、B級グルメなどがよく引き合いに出されるが、これらは一過性ものである。再生エネルギによる電力収入は安定性が高い。再生エネルギは供給が不安定であるといわれるが、多くの発電設備を電力ネットワ-クにつなげることで安定化できる。太陽光パネルと小さな畑を交互に配置するソ-ラ-シェアリングは、パネルによる日陰で農作業を涼しくできるので、作業効率が向上する。
岐阜県郡上市白鳥町にある山間の里、石徹白(いとしろ)地区は270人の集落であるが、2010年に農業用水路に水車を設置し2.2kWの水力発電を行い、その電力でトウモロコシの加工品つくりを始めた。年間500人以上の見学者が訪れるようになり、村にレストランができ、移住者が増えるようになった。6月には800万円の出資金で始めた100kWの発電所が完成する予定であるという。再生エネルギでのまちづくりとして興味深い。
2016年4月より50kW以上の顧客に対して、電気の小売自由化が始まり、市民電力事業者も参加している。市民電力事業とは、地域社会のために自然エネルギ電力を非営利で供給する事業のことである。こうした電力自由化をさらに進めるためには、発送電分離システムが必要である。これは、送電線を公共インフラとしてみんなが維持コストを負担し、発電会社が自由な価格で電気を販売するシステムである。しかし日本は、電力会社が高い送電線使用料金(7円/kW)を設定しているために、新規参入が困難である。OEC加盟34カ国で、発送電分離が出来ていない国はメキシコと日本だけであるという。高リスクな原子力発電を推進してきたのも、独占的な電力事業体制である。電力自由化が引き起こす変化に注目していきたい。