自伐型林業「川辺のコテッジ」

levin2020
2018年9月27日

2016年8月2日
四万十川の佐田の沈下橋のほとりで「川辺のコテッジ」を経営する若手林業家の宮崎聖(せい)さん宅を訪ね、自伐型林業に関する講義を聞いた後、施業中の山林を案内してもらった。宮崎さんは地元の人であり、山を借りて自伐型林業を推進する「シマントモリモリ団」の団長をしている。林業従事者の9割は40歳以上だから、38歳の宮崎さんは若手林業家ということになる。慣行の林業では、山主が森林組合に間伐を委託するのに対して、自伐型林業では、山主あるいは山主に委託された人が、森林のそばに住んで持続的に森林を管理して収入を得る。宮崎さんは、秋山梢さんと一緒に、秋冬は広さ7ha、樹齢40年のヒノキ林の自伐管理、春夏はカヌ-体験ガイドと民宿などの観光業を行っている。川辺のコテッジは一組様限定で素泊り5000円である。コテッジは木の床で足に気持ちがよい。夕食に出されたナスの炒め物やトマトはとても美味しかった。
宮崎さんは、大分県の私大で建築を専攻し、卒業後に四万十に帰郷した。ご実家は製材所と木工の福祉工場を経営していた。四万十川でのカヌーガイドは、夏場に限られ、天候にも左右されるので収入が安定しなかった。6年前に中嶋健造さんが代表を務めるNPO法人「土佐の森・救援隊」主催の説明会に参加したのがきっかけで、自伐型林業を始めた。家のそばで自伐林業をやることで、楽しく安定した収入が確保でき、精神的に余裕が生まれたという。宮崎さんらは、「えこふ市場」で木材加工品のネット販売もしている。「ひのきの大きなベンチボックス」は、余った無垢のヒノキ材でつくった収納できる腰掛けである。木材の搬出販売だけでなく、加工品が売れれば、四万十もより活性化するだろう。
林業は、戦後の復興期には盛んだったが、近年は従事者が5万人にまで減ってしまった。宮崎さんが通っていた小学校の生徒数はこの20年で100人から33人になってしまったという。また四万十川に豊富にいた鮎や川エビやウナギがいなくなってしまった。森林の放置や皆伐で川に土砂が流入した影響だという。林業の衰退から放置された人工林が増えると、山の保水力が弱まる。高知は雨が多いので、渇水と大水が繰り返されるようになった。渇水では水温の上昇が魚類を弱らせる。大水では川に泥が堆積し、川の浄化力が低下する。石の間に泥が詰まると、鮎のエサとなるコケが成長できなくなる。林業の停滞、製炭業の消滅、しいたけ栽培によるナラやクヌギの大量伐採によって、森林から川への腐葉土による養分の供給が減ると、川の水草や昆虫や魚が生きられなくなる。つまり林業がだめになれば、環境が悪化し、観光業もだめになってしまう。宮崎さんは、林業や観光業の経験を語りながら、環境保全の大切さを伝えてくれた。
講義では、自伐型林業の仕事の内容とこれまでの稼ぎの状況に至るまで教えて頂いた。A材は地元の製材所、C材は1mに玉切りして宿舎の薪ボイラ-用に軽トラ1杯4200円で納品している。ガスから薪に変えて、宿舎の暖房費は1/4になったという。高知では、作業道を1m作ると2000円の補助金がでる。今年作った1kmの作業道は200万円の収入になったが、レンタル代や燃料代が70万円かかったので、5か月で130万円の収入となった。A材10万円とC材50万円を合わせると、林業で190万円の収入があったという。観光ガイドの半年の収入85万円を加えると、275万円になる。通常、林業の平均日当は1.2万円/日であるから、200日働いて、240万円程度の年収である。30ha以上の森林面積がないと国の補助金は出ないので、作業道が作れないが、高知を含む4県では、7ha以上あれば県の補助金が出る。杉は7000円/m3、檜は12000円/m3が相場である。1haの杉は50年後に皆伐しても100万円にしかならない。それよりもっと木を太らせて、少しずつ間伐した方が全体の稼ぎは大きくなる。通常3割の間伐であるが、自伐では1割間伐を奨めている。その方が、枝が支え合うので、風に強い林を作れる。通常3000本/haのところを、さらに密植することで初期10年の年輪の目がより詰まったものになる。
木材の搬出道である幹線は、山土場まで最短コ-スを取るように、崩れにくい尾根部を蛇行して形成されていた。集材道となる支線は幹線の外カ-ブから等高線上に取られていた。支線の間隔や路網密度が適正に決められていた。どこに作業道を作るか、どの木を間伐するかなどを判断できるようになるには、かなりの経験を要する。宮崎さんは自分が作った作業道を歩くのは気持ちがいいようだ。
現場では坂本さんと小嶋恵理さんから作業の説明を聞いた。坂本さんはIT企業を退職され、小嶋さんは大学で遺伝子学を学んだ後、香取市の福祉楽団に就職し、そこから派遣されて、作業道作りを学びに来ている。3tの小型バックホ-(9万円/月のレンタル品)を使って伐開幅2.5m、法高1.4mの大橋流の作業道をつくっていた。草の種が含まれている切土は下に埋める、あるいは盛土にする。玉切りした短幹材の搬出には小型のフォワーダ(キャタピラのついた集材車、170万円)を使っていた。軽トラック(30万円)に雑木を積んで作業道を移動する。木材の搬出は1日に3m3(20本)程度だそうだ。坂本さんのオ-ストリア製のヘルメットには、チェ-ンソ-の音を消すための消音器がついていた。山林さえ入手できれば、少ない投資で無理せず始められるのが、自伐林業のいいところだ。宿泊した山下邸は檜つくりの家でよく眠れた。

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