郡上下駄は年商1億円
2016年9月8日 ·
移住推進事業を行っている「ふるさと郡上会」の小林謙一さんの案内で、郡上の町を散策しながら、移住者が始めた評判のお店を見学して回った。「郡上木履(もくり)」は郡上のヒノキ材を使った踊り下駄を販売しているお店である。愛知県の出身の諸橋有斗さんは、2014年に「郡上木履」を立ち上げた。諸橋さんはインテリア関係の専門学校を卒業後、2010年に沖縄のゲストハウス「ビーチロックビレッジ」で1年間『衣食住の自給自足』の生活に挑戦した。そこで建築や木材加工に興味を持ち、木材のことをもっと深く学ぶために岐阜県の森林文化アカデミ-に入学したという。小林謙一さんもそこの卒業生である。
諸橋さんは1年生の時に郡上踊りに出会い、下駄を買いに立ち寄ったお店で、踊り下駄が九州や海外からの仕入れ品であることを知って、とても驚いた。郡上は下駄の消費量が日本一の町であり、1年で3足以上の下駄を履き潰す踊り愛好家もいるのに、踊り下駄は地元産のものではなかったからだ。諸橋さんはそれから1年間かけて地元のヒノキを使った郡上踊りに適した下駄を研究した。地域の森林と文化と人をつなぐ取り組みが評価され、平成25年度の森林文化アカデミ―学長賞を受賞した。卒業後は、「郡上割り箸」に入社し、「郡上木履」のブランド名で製造販売を開始した。ちなみに郡上割り箸は漂白処理をしていない安全な杉の箸である。
「郡上木履」では、一塊の木片から下駄を切り出して作る。この丈夫な下駄はすぐに評判になり、昨年は1200足を売り上げたという。ツア-の後踊るので、私も一足買い求めた。藍色の鼻緒は、重要無形文化財の郡上本染によるものである。タカラ工房のシルクスクリーン印刷でデザインしたカラフルな鼻緒などもあった。他の地場産業と協力して商品開発を進めているのは素晴らしい。ここの下駄は幅が狭いので、小指がはみ出してしまうのが気になったが、その方が踊りやすいようだ。ヒノキは桐より重いが、幅が狭いので、さほど気にならなかった。地面を蹴ったときの音の響きがよい。郡上では踊りの練習は観光化しており、一年中できる。購入した下駄は、旅の思い出になる。郡上踊りのリピ-タも増えるだろう。
小林さんが諸橋さんに売り上げを尋ねた。「今年は2万足ほど売れた」と聞いて、耳を疑った。踊り下駄は一足4500円なので、年商1億円ということなのだろうか? 夏場は1日で100足売り上げることもあるが、お店だけの販売には限界がある。都内のデパ-トに出して売っているのだろうか。地元で余っている木材を加工して、実用的な伝統工芸品として高く売る。森林再生、地産地消、文化育成の成功例として、学ぶことが多い。