風土に適した住まいのあり方

levin2020
2018年9月26日

私たちは環境に適合した暮らし方を学んでいる。今回のテーマは住まいである。川崎の日本民家園で古民家を見学しながら、パーマカルチャ-理事の山田貴宏さんに風土に適した住まいのあり方についてお話しを伺った。
住まいは、そこにいる人がそこにある物でつくるのが良い。古民家は、地元の職人と地域の農民が協力し、木、藁、竹、土、石といったその土地の資源を巧妙に組み合わせて作ったものだ。高温多湿の日本では、家屋は風通しの良い木柱を基本としている。木の家は素足に暖かく健康によい。木柱は、腐らないように、石の上に置かれている。梁には曲がりくねった大木が用いられており、接合はすべて木組みである。木組みは振動を吸収するため、地震にも強い。壁は、柱と貫の間に竹を細かく格子状に編み付けた竹小舞に、発酵させた藁を入れた土を塗り付けて作られる。土壁は調湿性、保温性、防音性に優れている。広い土間では雨でも炊事や農作業ができ、縁側では気軽に近所の人と話しができる。茅葺の屋根は保温性が高く、囲炉裏から立ち上る煙は茅葺に虫がつくのを防いでいる。現代の使い捨ての住居とは異なり、手入れ次第で何百年も使える。環境調和性という観点では、古民家は完成された技術である。古民家は暗くて寒い印象があるが、農作業で鍛えられていれば、問題なく暮らせるのかもしれない。古民家の保存には費用がかかるが、このようにテ-マパ-クや遊園地などに古民家を展示するのは良い方法である。日本の豊かな風土に根差した家屋や美しい風景を残すことは、観光資源を豊かにすることにもつながる。
山田氏は、日本の風土にあった住まいや農的暮らしに役立つ様々な工夫を紹介した。例えば、泥付き野菜を持ち込め、蓄熱効果もある土間つきの玄関、夏の日差しを和らげる植物棚、畑の水やり用の雨水タンク、植物の力で浄化する排水浄化装置、薪ストーブやコンポストトイレなどがある。木の家なら自分で建てることも可能であり、建築費用も節約できる。風土にあった暮らしは、自分の手を動かすことから始まるのかもしれない。
さて、気になったことは、山田氏が講演の冒頭で述べた空き家問題である。2008年の統計によると国内の住宅5700万戸に対して、空き家が800万戸(14%)もあるという。住宅自体は毎年約70万戸の割合で増えている。2020年には、6500万戸のうち1000万戸(15.4%)が空き家になり、2040年には全戸数の36%~43%が空き家になると試算されている。老朽化した空き家は、治安の悪化、倒壊の危険性、景観の棄損、上下水道の劣化という問題を引き起こす。しかしそれ以上に問題なのは、不動産価格の暴落や経済パニックを引き起こす可能性があることだ。
空き家の問題は身近になっている。最近、岡山郊外に住んでいた職場の同僚のお父さんが亡くなった。空き家になった彼の実家には毎年18万円もの固定資産税がかかるようになった。解体には150万円かかる。更地にすると、固定資産税が年に100万円に跳ね上がる。更地にしても買い手がないという。固定資産税は地方税の50%を占めるので、自治体も簡単に税額を下げられない。固定資産税を払わない人が増えると、自治体も運営できずに消滅してゆく。従来の空き家バンク程度の政策では、こうした問題は解決できない。
背景には人口減少の問題がある。東京の出生率は1.09、地方の出生率は1.91である。地方の若い女性が東京に働きに出ると、人口減少が促進される。東京五輪が開催される2020年には、団塊の世代が72歳になり、首都圏の介護施設に入居する人が急増すると同時に、全国に空き家が大量に発生することになる。首都圏の千葉、埼玉、神奈川の10万人当たりの医師数とベット数は、全国で最低レベルであり、医療難民の発生は深刻である。
地方の地権者の権利を持ち寄り、空き家を集約すれば、高齢者用の住宅や介護施設が作れる。空き家となった百貨店や小学校はこうした用途に向いている。地方都市において、高齢者の受け入れ態勢を整えることができれば、地方に仕事ができ、出生率の減少を緩和できるだろう。しかしながら実行は容易ではない。小泉政権時に公共事業を半減させたため、15年で建設業就業者数は65%に減少している。震災復興や東京五輪の工事による需要増により、建設費は3割も上昇している。親の年金と家で生活する独身の地方の若者の間には、建設や運送のきつい仕事は人気がない。従ってそうした再開発を成功させるには、政府や自治体は、土地の用途や容積に関する規制を抜本的に見直さなければならないだろう。2020年には50歳以上の有権者が全体の60%以上を占める。早く手を打たなければ、問題は先送りされ、家の明かりが消えてゆくことになる。2016.5.2

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