農園経営の苦労

levin2020
2018年10月2日

2016.8.15
日本では年に約5万人が新規に農業を始めるが、殆どは農家の引き継ぎであり、8000人が農業機関に就職し、2000人が独自に農業を始める。非農家出身者は高いハードルを乗り越えながら農業の世界へ参入しなければならない。入手できるのは不良農地ばかりという状況で、難しい無農薬の有機栽培でかなり多くの品目を育て、販売まで手掛けるのは並大抵のことでない。堆肥を扱う有機栽培は体力もいる。家族がいる会社経営者が、あえて儲からないと言われる農業に一人で新規参入するというのは、大変勇気がいることであり、通常は考えられないことである。
多品目有機農園では、作物をこまごまと家庭菜園のようにたくさん育てる。多品目栽培は、虫害、乾燥、台風など天災や技術不足に対して、全滅のリスクを回避できる利点がある。例えば台風に弱いトマトと、台風に強い水菜やキャベツを組み合わせて作付けすれば、大きな被害を避けられる。また多くの種類を育てるので、連作を回避し、生物多様性を向上させることができる。しかし一般に多品目栽培は、利益が上がりにくく、労働効率が悪い。従って分散した農場は集中させ、出来るかぎり効率的な作業を行っている。多品種に対して欲しいときに欲しい収穫量を安定に得ていくのは容易ではない。綿密な栽培と作付け計画と実行力が必要になる。最近は、塩、鶏卵、生姜などを会員で共同購入し、配布する農産物の品揃えを増やすと同時に、地方の農家を支えることも行っているという。
小口契約が多いと、出荷作業にかなりの時間がかかり、顧客管理が難しくなる。CSAでは、基本的に細かい出荷作業は会員やボランティアが行うので、生産者は農作業に集中できる。会員は安全で美味しい野菜を期待しているので、有機農法を用いて野菜を栽培している。有機農法では堆肥づくりに時間と手間がかかる。堆肥は野菜に吸収される時間もかかるので、高度な技術と経験が求められる。そのため既存農家はリスクが大きく手が出せない。
有機肥料の分解の速さは、肥料のC/N比で決まる。有機物が分解するにつれて細菌数が増えるので、細菌に使われる窒素量が大きい有機物ほど、土壌中での分解が速い。水田で稲藁堆肥などを使うと、増殖する細菌に窒素を使われるので、初年度は稲が使える窒素が減ったりする。鶏糞や牛糞などの畜産系の肥料は、C/N比が稲藁の1/10と小さく、分解も速いので使いやすい。しかし畜産肥料は、家畜飼料に含まれるホルモン剤や抗生物質などが残留しているために、安全ではない。家畜飼料の70%が海外産で、その9割が遺伝子組み換え穀物となっていることも懸念される。そのため片柳氏は、米糠やおからに雑草を加えて完熟発酵させた植物系の有機肥料を用いている。カリ肥料は、放射能汚染のない森林を探し、そこで採れた薪から得た灰を用いている。
10年間続いたCSA農園であるが、農場経営は厳しい。課題は、作業参加者の増大と農場後継者の育成である。作業参加者はまだ全体の約40%であり、農場を続けていくためには、もっと参加率を上げなければならない。TPPが受け入れられれば、関税引き下げや農産物の表示義務がなくなる可能性もあり、農業の将来は不透明である。片柳氏は、障害者を受け入れ、福祉団体が運営するレストランに野菜を供給するなど、農福連携による経営を検討している。農福連携とは、農業と福祉が連携をすることで、障害者に農業分野で働く場所や収入源を与えながら、農業の担い手を増やし耕作放棄地を減らす取り組みである。障害者の就労機会は、地域経済の停滞と工場の海外移転に伴い、年々減少している。近年、厚生労働省は「農福連携による障害者の就農促進事業」として1億1,000万円を計上した。実施する都道府県には国から100%の補助がでる。2018年末までに全国250カ所の障害者施設が1250ヘクタールの耕作放棄地を再生し、自然栽培で収益力を高めれば5000人の障害者が1人平均月額3万5000円の工賃が得られるという。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの選手村に食材を提供することを目指している。

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