寺田本家の哲学

levin2020
2018年9月26日

寺田本家(酒蔵)24代目当主の寺田優(まさる)さんから、お酒の製造現場を見学しながら、寺田本家の伝統的な酒づくりに関してお話を伺った。麹室に入れてもらったり、もと摺り作業のときに歌う唄を聞かせてもらったり、発酵中のもろみを味見させてもらったりした。最後にここで製造されている「五人娘」などの日本酒を味わいながら、いろいろと質問をさせてもらった。
寺田本家のある香取は、稲作が盛んであり、良水と利根川の水運に恵まれた環境にあるため、昔から酒づくりが盛んであった。しかし近年は、ビールやワインなど他のアルコ-ル飲料が飲まれるようになり、日本酒は売れなくなっている。先代の寺田啓佐(けいすけ)さんは、著書の「発酵道」に詳しく書かれているように、大病を契機に、人の健康を考えた無農薬栽培の稲を使った伝統的な生もと仕込みによる酒づくりを復活させて、衰退していた寺田本家を立ち直らせた。
日本酒は、麹カビによる米でんぷんの糖化と、酵母菌による糖のアルコール化(発酵)を同時に行って製造される。麹、水、蒸米に、種となる酵母を加え、乳酸の強い酸性下で酵母を純粋培養して、酒母(しゅぼ)をつくる。伝統的な生もと仕込みでは、半切桶に蒸米と麹を入れて櫂(かい)ですりおろす「もと摺り」作業を行い、乳酸菌に乳酸を作らせる。乳酸の強い酸性によって有害な雑菌や乳酸菌自身を死滅させ、酵母のみを大量に培養する。
その後、酒母、麹、水、蒸米を発酵タンクに仕込み、およそ1か月かけて発酵させる。発酵が進み、アルコ-ル濃度が高くなると、死んだ酵母からは雑味成分が漏出してしまう。しかし生もとの酵母は、麹がつくる適正量の糖を餌にして育つので、20%もの高濃度のアルコ-ルという厳しい環境の中でも逞しく生き残る。その結果、雑味のない深い味わいの酒が生まれるという。
ワインのアルコ-ル濃度は8%くらいだから、日本酒の酵母がいかに野性的か想像できる。これは不耕起栽培の野性的な稲を連想させる。生き物の持ち味や本来の野性的な力を引き出す環境づくりが重要であるという。視聴した映像では、寺田本家の杜氏(とうじ)の人たちも、温度調節以外は機械をできるだけ使わないで、野性的に働いていた。
先代は「人間も菌も自然の中の生き物なのだ」という考えに基づいて、「自分らしく、仲良く、心地よく生きる」といった発酵的な生き方を提唱している。これは自分らしさを大事にしながら、人の役に立つような生き方である。これからの暮らし方を決める上で、大変参考になった。2016.2.23

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