過疎の村で稼ぐ方法
2016年7月30日
高知県本山町に移住したフリ-ランス記者の池田勇人さんを尋ね、過疎の村で稼ぐ方法についてお話しを伺った。
池田さんが住んでいる「クラインガルテンもとやま」は「農ある暮らしの創出」や「移住促進」などを目的とした滞在型の市民農園である。クラインガルテンは、ドイツ語で「小さな農園」という意味である。別に自宅があって、真面目に草刈りや除草をやって、ちゃんと農業する人だけが滞在できることになっている。今年で開園四年目を迎えた新しい施設で、家賃は40万円/年である。池田氏の家は、標高600mの高さにあり、風通しがよく、美しい棚田風景を見下ろせる。お隣の集会所では、イニシシと鹿の肉の合い挽きをグリルで焼いているところを撮影していた。台湾の富裕層の旅行者を招待して、棚田の絶景を見ながらジビエ料理を振る舞う計画だそうだ。道が狭くて曲がっているので、車の運転に慣れていないと、ここに住むのは少し大変だ。奥様も最初は不満に思っていたそうだけど、今ではなんとか慣れたそうだ。
棚田で栽培されているのはブランド米「土佐天空の郷」である。山間のきれいな谷の湧水があり、谷津田と違って日照時間が長く、夏でも昼夜の温度差が10℃以上あるため、美味しいお米が栽培できる。しかし棚田なので面積が限られ、何より水の管理が難しい。夏は水温が上がりすぎるので、かけ流しにしたりする。またこんな大小様々の棚田に機械植えをする運転技術には驚く。高齢化と人手不足で無農薬栽培は難しそうだ。農薬や化学肥料の使用を半分にした特別栽培になっているが、使っている除草剤や防虫剤の種類は48種類にもなる。高知では遅く植えて、10月の遅い時期に稲を刈るらしい。味がいい穂先が熟れ過ぎないように早めに刈る。本山町や四万十は、有名な塩基性の蛇紋岩地質である。蛇紋岩はMg3Si2O5(OH)4を主要構成とする風化しやすい岩石である。土壌はマグネシウムが豊富で、カルシウムが少なく、乾きやすく貧栄養である。しかし本山は香川県に行く街道筋にあるので、弥生時代から米作が行われてきた。ちなみにマグネシウムは、葉緑体に含まれる元素であり、カリウムに対してマグネシウムの含有率を多くするのが美味しい米つくりの基本である。本山町の棚田では、稲穂が膨らみかけてから、室戸岬の海洋深層水のにがり(マグネシウムを含む)を水鉄砲で3回散布している。四国の米はヒノヒカリが多いが、ここの棚田の米の品種「にこまる」は色白で粒が大きい特徴がある。その玄米は750円/kgで売られている。これは関西の無農薬米と同程度の価格だ。
田舎では、生活費が安いので、稼ぎに追われることが少なくなり、のびのびと暮らせる。しかしその分、自分と向き合う時間が長くなる。田舎暮らしでは、時間ができるので、何でも自分でやれる。稼ぎが少ないので、何でも自分でやらなくてはならない。鹿を捌いたりとか、電柱を建てたりとか、都会でできないことが経験できるかもしれない。つまり田舎は自分で暮らしを作ってみたい人には向いているということだ。嶺北には、変わった人が移住してきていて、面白いらしい。たとえばア-ト公園とか、お祭りを自分で作ったりする人たちがいる。こうして田舎で得たいろいろな経験を記事にして、ネットに掲載、配信すると、都会の人がお金を払い、面白がって読んでくれるというわけだ。
池田さんは、ネットで稼いだお金を、何か有意義なことに投資したいと考えている。例えば、近所に土地や家を買ったりし始めている。若い人に投資して、田舎暮らしに挑戦させたりもしている。田舎で家を借りるのは簡単ではないようだ。しかし池田氏は「くればなんとかなる」と言う。しかし来ている人はそれなりに農作業経験がある人のようだ。彼から学んだことは2つあった。
一つは「村にないものを造ることで、村を豊かにする」という発想だ。本山町では、製油、製粉、地ビ-ルなどがないから、そういうものを手掛けたら、稼ぎになるという。精油では椿油、製粉では大麦や小麦粉、パプリカ粉、パクチ-粉などが考えられる。高知県は日本一飲酒が盛んな県だから、地ビ-ルをつくる工房は歓迎されると考えられる。年に6000リットル生産すれば認可される。つまり1日20リットルバケツ1杯分のビ-ルを作ればいい。通常は缶ビールで十分だと思う。しかし地元のおじさんたちが誇りに思う地ビ-ルができれば、それは村を豊かにしたことになるのだ。
二つめは「村で無駄に捨てられているものを使う」という発想である。余った柿などは捨てられるが、それらを集めて柿酢を作れば、保存できる。ラ-メン屋に卸すこともできるかもしれない。余って捨てられる野菜を砂糖漬けにしたり、発酵、乾燥させたりして保存性を高めれば、商品になる。通常は、柿酢なんて誰でも作れるから、真似されたら、売れなくなるだろうと考える。しかし「余って捨てるほどある」ところに競争の優位性があるのだ。余って捨てられている耕作放棄地にマコモを植えて、マコモ茶をつくるというのも、そういう発想のひとつである。
そうやってネタを探すのは面白そうだ。ウジだってタイのエサになるし、コオロギだって味の良いだし汁がでる。昆虫の養殖も田舎でしかできないものなのかもしれない。しかしラ-メン一杯のだし汁とるのに数100匹のコオロギを使うのはどうなのかな。